おススメのキャビネ・ダンテール御茶ノ水(CDO)Ⅱ

Dr.安田からの提言

 
 
 いつまでも続く歯科治療のトラブルの打開に少しでもお役に立つように、また、患者さんが少しでも快適に歯科医院を訪れてくださいますように、長い歯科医師としての経験で得た治療とはどういうものか、歯科の本質とは何かを伝えることができればと書き綴りました。歯科医師側からの提言であり私の主観によるところもありますので、ご不満やお叱りもあるかと思いますが、歯科医療関係者と患者さんがお互いに理解し合い、診療の際に良い関係でコミュニケーションを図れますように、患者さんだけでなくこれからの歯科を支える若い歯科医療関係者の方々にもご一読頂けましたら幸いです。                    
キャビネ・ダンテール御茶ノ水 院長 安田 登
Dr.安田からの提言 内容一覧

1.はじめに

 
『Dr.安田からの提言』-連載開始にあたって
 

 歯科医になってから既に40年以上が経過しました。さすがに体力も知力も落ち、そろそろ若い人たちに道を譲らなければいけないと真剣に考えている昨今です。まあ、それと同時に残された人生の中で、患者さんである皆様に、またこれからの歯科界を背負って立つ若い歯科医師たちに、これだけは伝えておきたいと思っていることも多々あります。
 
 最近私の診療所に、あちこちの歯科医院でトラブルを起こした患者さんがよくお見えになります。診療所にとってはありがたいことなのですが、歯科界全体のことを考えると、いささか将来が思いやられるのも事実です。もっとも多いのはインプラントに関する問題ですが、その他にも知らないうちにたくさん歯を削られてしまったとか,神経をとられてしまったなどというものが多いです。 
 
 治療椅子に座って口を開けてしまえば、ほとんどの患者さんは歯科医のなすがままに治療を進められてしまいます。歯科医の先生も患者さんが何を望んでいるかなんて考える間もなく、口の中の状態を見て瞬時に治療法を判断するようです。痛みをこらえ、恐怖心を振り払ってやっとの思いで歯科医院の扉を開いた患者さんの気持ちなどおもんぱかる暇もないのです。 
 
 トラブルが起きると、患者さんは歯科医を非難し、すべては歯科医が悪いことになってしまうようです。やれ歯を抜かれてしまった、やれ削られてしまったの類です。まあ、そのほとんどがお互いのコミュニケーション不足と、お互いの理解不足から来るもので、歯科医も話す時間が惜しいのでどんどん自分の思った治療を勝手に進めてしまうのでしょう。何しろ話して説明をしても現在の保険診療では全くお金にならないのです。インフォームド・コンセント(説明と合意)なんて言葉もありますが、歯科医が一方的に説明し、患者さんが理解しないままに生半可な返事をするだけでは、ちっとも真のインフォームド・コンセントにはなっていません。 
 
 いつまでも続く歯科治療のトラブルの打開に少しでもお役に立つように、幸い口の方はまだ達者なので、残された時間で市民の方々に歯科治療とはどういうものか、歯科の本質とは何かを伝えて、少しでも快適に歯科医院を訪れて頂きたいものと考えています。何の説明もしない歯科医を弁護するつもりは毛頭ありませんが、歯科医には歯科医の言い分もありますし、少なくともある程度歯科への理解を深めておけばトラブルを未然に防ぐことも可能です。 
 
 どこまで書くことができるかわかりませんが、「Dr.安田からの提言」に是非ご期待下さい。
 

(この連載は数年前に私が理事長をしているNPO法人「歯と口の健康を守ろう会」のHPに 30回にわたって掲載した、
  「これだけは分かってほしい歯科へのかかり方」に加筆修正をしたものです)

 

2.北京のキオスクのおばさんが、
日本人、中国人、韓国人を見分ける方法?

 
 日本、中国、韓国、この東アジアに位置する3つの国に住む人々はよく似ています。生活様式、性格、言語などはともかくとして、姿、形は本当によく似ています。近頃は第2次大戦時の日本軍の行為を巡って、中国、韓国とはいささかギクシャクしている感があり、そのため日本への観光客はいささか減った感がありました。でも、最近になって中国、韓国の経済的発展の影響か、はたまた抗日運動をいつまでも続けてもお互いのためにならないと思ったのかどうかは知りませんが、またまた両国から多くの観光客が押し寄せているようです。中国、韓国に限らず台湾、香港を含めても、その方々を外見だけでどこの国の人と見分けるのはかなり困難です。 
 
 まあ、身体全体から醸し出される雰囲気から、日本人との区別は大よそつくのですが。それと、今のところ団体客でガイドさんの旗に従って歩いている人が多いので、ああ、この方たちは日本人ではないなと検討をつけることもできます。しかし、留学生やすでに日本で働いている人たちが一人で歩いていたりすると、日本人かどうかさえも分かりません。ましてや中国人なのか韓国人なのかなんて全くわかりません。
 
 最近、中国は北京を旅した姪から気になる話を聞きました。北京でも同じように日本や韓国から名所旧跡を訪ね、グルメを求めて大勢の観光客が押し寄せているようです。もちろん台湾、香港、上海など国内からも当然のことですが多くの人が訪れます。その観光地の売店では日本人と韓国人を見分けるのに歯を見るという話です。きれいな歯が整っているのが韓国人、そうでないのが日本人だと言われたそうです。さらに、日本人の歯は中国人よりも悪い、つまりこの3国間では最も歯が汚いのが日本人という評価だそうです。
 
 え~っ!それはないでしょう?とほとんどの人が思ったのではないでしょうか? 少なくとも3国の中では国民一人当たりの所得は日本が最も高く、経済的にも恵まれているはずなのに。でも私は、観光地の売店の人が考えていることは正しいかもしれないと思いました。私は常々日本人の歯は世界で一番貧弱だと思っているし、患者さんにもそのように説明しています。それが証拠に、首相をはじめとした政府の高官が国際会議などに出席するのをテレビで見ても、他の先進国首脳に比べるとあまり立派とは言えません。テレビに登場するタレントさんでも歯並びが悪かったり、いかにも直しましたと言わんばかりの歯を見かけます。まあ、世界中を旅した訳でもありませんし、世界の人々の口の中をすべて見たわけでもないので,あくまで私の主観的な見方にしかすぎませんが。

3.日本人の歯は世界一貧弱-その原因は低医療費政策?


 じゃあ,低開発国の人たちよりも口の中の状態が悪いのかという反論もあるでしょう。しかし、食べるものもない低開発国の人たちの口の中は驚くほどきれいなのです。つまり食べるものが十分でないが故にむし歯になっていないのです。

 では何が日本人の歯を世界で最も貧弱と思わせているのでしょうか? 日本は先進国だし、歯科医の数だって多いし、技術だって高いという評判なのに。私の推論はむし歯の数や歯周病の罹患率などを指している訳ではありません。むしろ、WHOのデータを見れば日本はまあまあよい成績を示しているのです。

 つまり、貧弱と言っているのは口の中の健康に対する自覚、歯が持つ社会性に対する意識の低さではないかと思っています。見栄えひとつとっても、歯が脇の方から生えていたり、銀色の被せ物、詰め物、さらには歯の色からほど遠い差し歯などが、口の中で所狭しと並んでいたりしてもあまり気にしないのです。もっとも、周りを見てもみんな同じようだから、それが悪いとも、おかしいとも思っていないのかも知れませんが。

 むし歯かなんかで歯科医院に行けば、大体の人は口を大きくあけて、ただ単に歯科医にされるがまま。終わって、口を覗けば銀歯がきらり。「ありがとうございました」と言って歯科医院を出ても、他のやり方を知らないから、治療そのものに疑問を挟むことなんかまるでありません。かくして、口を開ければ銀歯がきらりという日本人があちこちに出現するという訳です。

 どうしてこうなってしまったかお分かりでしょうか? 端的にいえば、私は低医療費政策に基づく健康保険医療制度によると考えています。つまり保険治療があまりに安すぎるから、世界標準の良い治療ができないというわけなのです。だからといって保険治療をやめて自費診療にしなさいと言っているわけではありません。
 
 ご承知のように日本は世界に冠たる皆保険制度を持つことで知られ、誰もが、どこの病院にでもかかれるフリーアクセスを誇示しています。素晴らしい制度ではあるのですが、残念ながらあまりにも低い診療報酬のために、歯科では1時間の中で3人~4人もの患者さんを診なければ経営が成り立たないのです。つまり医科も歯科も日本の医療は医療従事者の負担の上に成り立っているといってもよいのです。

 戦後の右肩上がりの経済成長のもとでは,それにともなって診療報酬も毎年毎年上昇してきました。ところが、小さな政府を目指した新自由主義の下、医療や福祉などの社会保障費は低く抑えられるようになり、1982年に発足した中曽根政権以降は診療報酬の伸びは全くと言ってよいほどないのです。

 その間、う蝕をはじめとした歯科疾患は減少しているのとは裏腹に、政府の無作為のために歯科医師は急増し、益々歯科医院の経営は厳しくなってきています。残念なことに歯科医の5人の1人は年収300万円以下のワーキングプアと言われている位なのです。 

4.歯をたくさん削れば歯医者はもうかる?

 
  歯科医院の経営が厳しかろうが、ゆとりがあろうが、皆様方には関係のない話なのかもしれません。しかし、皆様方が一旦患者として歯科医院へ訪れる立場になると、これが結構問題となってきます。お聞きになったこともあるでしょうけれど、いわゆる過剰診療(オーバートリートメント)といわれるものです。つまりやらなくてもよい治療をされてしまう恐れがあることが問題なのです。
 
 日本の健康保険診療報酬は出来高払いといわれるものです。行った治療行為だけに報酬が支払われるのが基本です。ということは、これはなんでもないですよ、ちょっと様子を見たらいかがですか? なんて時は歯医者には一円の報酬もなく、せいぜい初診料か再診料を頂けるだけなのです。
 
 そうだすると、歯科医院経営が極端に困っていれば、ついつい余分なことを行ってしまう可能性も考えられます。ほんの小さなむし歯も大きく削って詰める、生きたまま残すことができるかもしれない神経をとってしまう、抜かなくてもよい歯を抜いてしまう。何しろ日本の健康保険はたくさん削ると、たくさんお金が入る仕組みになっているのです。歯科医として、なるべくよい歯を削らない、神経や歯を抜かない努力をすればするほど皆様にとっては治療費が安く、歯科医に入る診療報酬は少なくなってしまうのです。何かおかしいとは思いませんか?  
 
 結果として、保険治療では診療に対する説明も少ない、短い治療時間の中で安易な治療法を選択し、多くの人たちは必要のない治療を受けてしまう。そしてそれが、残念なことに先進諸国の中でもまれにみる程、歯が貧弱な国民となってしまう原因と考えられます。 
 
 歯が汚いだけなら一向に構わないよという人もいるかも知れませんが、歯は手をつければつけるほど弱くなってしまい、次々と大きな処置を必要とするようになります。最初は小さな詰めものだったのに、その脇からむし歯ができ、大きな詰めものに変えなくてはなりません。それがまたむし歯になれば、今度は神経をとって冠をかぶせなくてはなりません。それがだめになったら…、そう、次々とまるでドミノ倒しのようになって、やがては大きな入れ歯をするようになってしまうのです。なんか変だと思いませんか?

5.口を開ければ銀色の世界

 
 冒頭で話した中国の売店の店員さんたちに日本人の歯が汚いと映る最大の原因は、決してむし歯を放置していることではないと思います。口の中にギラギラ光る銀歯の大群が問題とされているのではと考えています。これは、多くは金銀パラジウム合金から作られた詰め物、被せ物です。
 
 昔からむし歯のあとの詰めものや被せ物には金合金かセラミックス、そして小さな詰めものには安価なアマルガムと呼ばれる合金が使用されていたのが普通です。アマルガムも銀色なのですが、最近では水銀を含むためではほとんど使用されていません。さて、問題は金合金です。今も昔も、金は高価なため保険治療でこれを使用することは到底できない、と政府は考えたわけです。そこで、金合金に代わる合金を開発するように 各企業、各大学の研究者に依頼があり、その結果生まれたのが金銀パラジウム合金、ニッケルクロム合金などの、いわば代用合金でと呼ばれるものです。
 
 各企業がこぞって開発に取り組んだ代用合金は、確かに機械的性質はそこそこ金合金を代用することはできたのですが、残念ながら世界でもまれにみる銀色の歯を生み出してしまいました。私たちが国際学会などの研究発表で患者さんの口の中を映したスライドを見せると、外国の研究者達は一様に驚いた顔をします。「あの銀色に輝いている被せ物は何だ?」
 
 さあ、これからが皆様にお願いです。
 
 まずは、もう少し歯にお金をかけていただけないでしょうか? 少なくとも、今の診療報酬の点数を2倍にして欲しいのです。そうすれば、15分~20分に一人の割合でみていた患者さんに30分~40分の時間が割けられ、ゆっくり説明をする時間ができ、間違いのない治療法を選択できる可能性が増えます。 次に、これは厚生労働省へのお願いなのですが、歯の予防をはじめとして、歯を守る治療にお金を配分して欲しいのです。 相変わらず歯をたくさん削る方が儲かるシステムでは、ついつい魔が差してしまうのも分からないでもないし、いや、魔が差さないまでも一生懸命歯を守ろうとする意欲が失われるというものでしょう。
 
 北欧を中心とする福祉国家といわれるところは税金が高いことで知られています。つまり「高福祉高負担」といわれるものです。日本も世界に冠たる国民皆保険を守ろうとすればするほど、また自分の歯を健康に保とうとすれば、国民は消費税なり国債発行なり、それなりの負担を考えなくてはならないと思うのですが如何でしょうか。 次回からは、どのようにして自分の歯を守り、どのようにして歯医者さんと付き合うかについて考えてみたいと思います。

6.人間の歯の数、知っていますか?

 
 さて、中国の売店の売り子さんたちに馬鹿にされないために、きれいな自分の歯を守るにはどうしたらよいのでしょうか?
 
 80歳になっても20本以上の歯を残すという、厚生労働省と日本歯科医師会が提唱している「8020(ハチマルニイマル)運動」をすでにご存じの方も多いことと思います。幸い、ハチマルニイマルなんて語呂(ごろ)もよいものですから多くの人に認知されるようになりました。
 
 ところが、言葉自体は知っていても、その実態については知らない人が多いようです。現在、80歳の人が平均すると何本くらい歯をもっているのか、80歳で20本の歯を残すと何か良い事があるのか? 達成するためには60歳のときには何本程度持っていればよいのかなどなど、そんなことは全く知りません。そりゃそうですよね、そんなこと興味もないし、歯科医だって詳しくは知らない人もいる位ですから。
 
 それ以前に、多くの方は人間の歯が何本あるのかもよく知らないようです。まあ、とくに歯の本数なんて知っておく必要もないのですけれど。私は診療室に来られる患者さんに、「人間の歯は何本あるかご存知ですか?」と、ときどき聞いてみます。総数が分からないのに20本残せと言っても、どこをどう注意しなくてはならないのか皆目見当がつかないのではないかと思ってのことです。答えは、4本の親知らずを除けば合計28本なのですが、正解を言える人はあまり多くはありません。大体、皆さんの回答は20本~40本の中に集約されますので、まあまあとんでもない数を言っているのではないことは分かります。中には、「100本くらいあるんですかねえ」なんて、こちらをオチョクルような答えもあります。
 
 28本あるのが正常だとすると、8020を達成するためには,80歳までにたった8本しか失ってはいけないことになります。むし歯や歯周病、あるいは事故で歯を失うことを考えると結構難しい注文であることが分かります。もっとも、男性にとっては80歳まで生きることさえ難しいという声もありますけれど。

7.歯の病気は治らない!?

 
 いきなりですが、私は歯科の病気はほとんど治らないと考えています。それが証拠に皆様も、同じ歯を何度も何度も治療された経験がおありでしょう。さらに言えば、もともと歯の病気は治る、治らないというものではなく、自然に治ることのない「障害」として取り扱うべきと考えています。普通、腕でも足でも傷を負えば、その傷口からは血が出てきます。やがてこの血が止まって固まり、その下から新しい皮膚ができるとはじめて治ったということができます。つまり皮膚ができることによって身体の内部環境と外部環境を分けることができるのです。
 
 ところが、残念ながら歯には、とくにむし歯になる部分には血液が流れてなく、他の部位の傷と同じようには治りません。そのため治療といっても、むし歯になった悪いところを削りとって、代わりに何かを詰めておくだけにしか過ぎないのです。
 
 歯周病も似たようなものとして捉えることが可能です。こういうと多くの歯科医から怒られそうなのですが、ある程度歯周病が進み骨まで吸収されて歯がぐらぐらするようになったら、残念ながらもう元には戻りません。表面の歯肉の炎症は治っても骨が元に戻ることはありません。そうすると、歯周病もまたむし歯と同じように、ある程度進んだら疾病というより障害と考えた方がよいと思われます。う~ん、凍傷や糖尿病のように障害を伴いつつ進行する疾病という言い方もできるかもしれません。
 
 ついでに言うならば、むし歯と歯周病によって抜けてしまったあとに残された欠損(歯の抜けた後の歯茎とでも言いましょうか)は、もう間違いなく事故や傷害で四肢が切断されたのと同様、完璧な障害ということができます。
 
 歯科の疾患は医科と異なり障害の方が圧倒的に多い特殊な医療分野といってもよいと思います。つまり、くどいようですが歯科はほとんど「治らない」疾患を相手にしている医療と言うことができます。ここまで書けば自分たちの歯を守るにはどうしたらよいかがお分かりになると思います。そうです、歯の病気にかからないようにすることが最も大切なことなのです。
 
 「な~ンだ,予防か」なんて簡単に言わないで下さい。確かに予防なのです、医者にかかれば治るような病気ならともかく、一度罹ってしまえば治らない歯科の病気こそ、罹らないようにしなくてはならないと考えています。

8.大切な定期健診!でも保険は効きません

   

 予防の方法については、すでに多くのところで説明されているのでここでは詳しく触れません。むし歯も歯周病も、口の中にいる細菌が関与しているので、要はその細菌の数を減らす、細菌に侵されにくい丈夫な歯にする、細菌が活動しない環境を整えるなどが必要です。ということは、毎日の歯磨き(フッ素入りが好ましい)と規則正しい食習慣、ストレスをためない生活を送ることなどが大切と考えられます。これらは自分で歯を守る行為でセルフケアと呼んでいます。 
 
 この辺りはどの歯科医院に行っても歯科医、あるいは歯科衛生士が詳しく説明してくれます。まあ、どんな予防法もそうなのですが、それをきちんと実行してくれるかどうかが問題で、それはあなた次第ということになります。 
 
 私は、その他にもうひとつ、必ず定期健診を勧めています。私の場合は勧めるというより「半ば強制的」に定期健診に来るように患者さんにお願いしています。「もし定期健診に来られないのだったら、私はあなたの歯の健康を保証するはできません!」などとまさに脅迫するかのように言ってしまいます。
 
 口の中のセルフケアに限らず予防という行為は、まあ言うならば退屈な行為であることは間違いありません。こうすれば必ず防げますなんて言われて、はいそうですかといって熱心に行う人の方がまれです。たばこをやめれば健康になります、甘い物を控えればダイエット出来ますなどという言葉がほとんど守られないと同じで、いうならば人間の習性といってもよいのではないかと思います。
 
 だから誰かが一緒に手伝ってあげるのがよいと考えています。自分の口の中の状況を、出来たら1カ月に1回位、専門家にチェックしてもらうのです。ついでに、自分ではうまく届かない場所をクリーニングしてもらうとよいと思います。自分で歯を磨いていると、どうしても磨き易いところばかり磨いてしまいがちです。そうそう、歯磨きは歯を磨くのではなくて、歯と歯の周囲をクリーニングするものだと思って下さい。磨き易い場所ばかりをごしごしブラシでこするとかえって歯を痛めてしまいます。
 
 定期健診と口の中のお掃除を合わせて、チェックアップ&クリーニングとおしゃれに言うところもありますが、この行為はとても大切で、これこそが歯を守るはじめの1歩なのですが、残念ながら保険が効かないのです。

9. 予防は自分の歯への投資 

 

 えっ! どうして? どうしてそんな大切なことが保険じゃ認められないの?」という声が聞こえてきそうです。でも、日本の健康保険は医科も歯科も疾病保険で、しかも出来高払いと言われるものなので、病気にならなければ保険は払われないし、受けた治療行為に対してだけしか払ってもらえません。まあ、保険という名前ならば当然のことで、絶対に必要なことや、みんなが罹る病気には保険が効かないのは当たり前なのです。そもそも保険というのは、普通は滅多に起こらないけれど、もしもの時に皆がお金を出し合って、運悪くなってしまった人を助けるというものです。社会保障というのはそういうもので、だからこそ少ないお金で大きなお金を保障してもらうことが可能なのです。確かに自動車の保険でも火災保険でも、めったに起こらないことを前提としているから成り立つわけですね。 
 
 予防行為のように皆が必要で、皆が行うものに保険をかけても、1万円の保険料を納めても、きっと1万円分しか面倒を見てくれないのではないでしょうか。むしろ手数料を引かれて9,000円分しか保障されない、なんていうことになるかもしれません。 
 
 そんな訳で予防行為に保険適用を期待するのはむずかしいと考えられます。お産は正常分娩であれば保険が効きません。しかし、一時金支給というのがあるから、歯科の定期健診とクリーニングも受診すれば保険から3,000円程度支給されるという方法ならできるかもしれません。ちなみに、私のクリニックでは定期健診が5,400円、その後のクリーニングは程度によって5,400~21,600円まであります。高いと感じる方も多くいらっしゃると思いますが、自分の歯を守るための「投資」と考えたらいかがでしょうか? 
 
 将来的に歯がダメになってしまえば、冠を被せるのに高額なお金を支払ったり、抜くようなことになったらインプラントを勧められ、数十万円の出費を余儀なくされるなんてことも起きてきます。正直言って歯の治療で治るものはほとんどありません。一度罹ってしまえば悪くなる一方なので、そう考えると年2回~3回の定期健診とクリーニングなんて安いものとは思いませんか? 
 
 そうそう忘れてはいけません。歯磨きだけ一生懸命やってもダメなことがあります。そもそもむし歯も歯周病も慢性疾患、それも生活習慣病ととらえることが重要です。とすれば当然のことながら規則正しい生活も口の中の健康を保つためには大切です。夜更かしをして、深酒にたばこ、どれ一つとっても健康もさることながらむし歯にも歯周病にも悪影響を与えてしまいます。
 
 だらだら食いもいけません。昔からよく言ったもので、おやつは10時と3時、そして夜食はとらない。つまり、食事をすると、皆さんが食べた食事の余りを口の中に棲んでいる細菌たちが狙ってくる。まあ、食べるだけなら許してあげたいのですが、細菌はその代謝産物として酸(主に乳酸)を産生します。その酸が歯の表面のエナメル質をとかし、これがむし歯のスタートとなるのです。でも人間の身体はうまくしたもので、食事の後にたっぷりと唾液が出てきます。その唾液がとけた歯の表面を修復する働きがあるといわれています。しかし,細菌があっという間に歯の表面を溶かしてしまうのに対して、唾液の力で修復するのは何倍、いや何十倍もの時間を必要とします。 
 
 だから食事の後、唾液が一所懸命に修復作業をしている時間に、また細菌にえさを与えてしまったら、やはりまずいですよねえ。

10.あれっ!むし歯かな? 歯医者に行かなくっちゃ

 

 一生懸命予防に努めていたのに、ついつい仕事が忙しくなっておろそかになった途端、歯がしくしくとしみるようになり、鏡で覗いてみると黒い穴までも見えます。「ヤバイ!むし歯かな?そういえばこの間の定期健診さぼっちゃったからなあ」。 
 
 ああ、もうこうなったら残念ながら自然には治りません。むし歯とはそういうものなのです。私は仲間と一緒に「あなたの健康21『歯と口の健康を守ろう会』というNPO法人を主宰していますが、そこではむし歯は治らない、治せないという標語を掲げて活動を行っています。歯の病気は身体の他の部分におこる病気と違って、自然治癒することはありません。本当に初期のむし歯だけ、すなわち歯の表面にあるエナメル質が脱灰して目に見えない程度の穴があいたり、白濁したりしている程度のむし歯なら、うまいことに唾液がリン酸イオンやカルシウムイオンを出してその部分を埋めてくれます。その時にフッ素入りの歯磨き剤は、その手助けをしてくれるのでとくに有効です。 
 
 しかし、目に見える程の穴があいてしまえばもう決定的です。こういうところに食物のカスが入ると自然には取れません。歯ブラシを使ってもよくとれませんので、口の中に住んでいる細菌が寄って来て棲みかにしてしまいます。後の状況はもうお分かりと思いますが、どんどん歯が浸食されて大きなむし歯に成長?していくのです。
 
穴があいているかどうかは自分ではよく分からないので、当然歯科医院で検査をしてもらわなくてはなりません。診断にはレントゲン写真を撮ったり、先端の鋭い器具(探針)を使って手探りで探ったり、細いノズルの先からレーザー光線が出て、目に見えない穴の深さを計測してむし歯と判断してくれる機械などを使って行います。
 
 そういう診断のことはまだ先のこととして、ともかく歯科医院に行かなくてはいけません。かかりつけの歯医者さんがいる人はそこで検査をしてもらえば良いでしょう。ところがそういう歯科医院を持っていない人、引越しをして新しい土地に慣れていない人、場合によっては近所の歯医者さんに行ったけれど、その歯医者さんとうまく信頼関係が築けなかった人などもいると思います。そういう人はどこで、どういう歯科医院を見つけなければならないか随分と迷われていることでしょう。次回はどうしたらよい歯科医院、歯医者さんを見つけられるのかについて私なりの考えを述べてみたいと思います。