なるほど!歯の雑学

安田院長と歯科医療に携わる仲間たちが書いた「歯と口」にまつわるお話です。

う蝕予防と田沢湖からクニマスが消えた原因の共通性

中林 宣男

 地球上から絶滅危惧種の動植物の保護のために、地球環境の保護対策がいろいろ議論されている。2010年末、秋田県の田沢湖に生息していたが絶滅したとされていたクニマスが、山梨県の西湖で生きながらえていたことが明らかになり、「さかなクン」がクニマスの話題を広め、天皇陛下もクニマスの生存を喜んで下さっていることが広く報道され、暗い社会での明るい話題であったことは記憶に新しい。田沢湖に生息していたクニマスを西湖に移す目的で移送されたクニマスが、西湖で立派に生息してきたこと、西湖の環境がクニマスの生息に適していたことが証明されると共に、何故田沢湖からクニマスが絶滅したか、私達はきちんとその原因を理解し、絶滅危惧種を救済する環境保護対策に生かしたく考える。昭和40年に玉川温泉に湧き出す酸性の水を水力発電所や農業用水に利用しようとし、排水を安易に田沢湖に流し込んだことが、田沢湖の水を酸性にする原因になったことが西湖でのクニマスの生存で明らかにされた。環境破壊は利便性を求めて発達した科学技術の負の影響が引き金になっている好例であろう。
 クニマスの生存劇を、私達はう蝕罹患予防運動のヒントとして生かしたい。現在皆さんは唾液を中性に保つことがう蝕予防に有効であることを知識としては知ってはいても、実践しているか疑問である。クニマスの運命を左右した原因が、塩基性の歯が酸で分解されることを阻止する知識に演繹できるのである。皆さんがクニマスの絶滅の原因を、自分の口腔内の環境を西湖の水のように日常生活に生かせば、歯は分解されなくなるのです。クニマス君が教えてくれた事実をぜひ生かし、自分でう蝕罹患を防いで欲しいと思います。即ち食事の後には必ず乳酸の原料となる食べ物のかすを口の中から歯ブラシで除去し、寝る前にもう一度丁寧にフッ素入り歯磨きペーストで口腔粘膜と歯の表面をきれい(清潔)にして欲しいのです。歯ブラシは口腔内を綺麗にする道具であって、歯の表面を磨く道具ではないことを理解して欲しいと思います。食べ物が付着した表面(歯の表面だけではありません)を綺麗にしなくてはう蝕予防には効果がありません。むし歯は歯にできますが、その原因は食べ物に触れた面で作られる乳酸にあるのです。

最近の動物事情 ~動物からは学ぶ事が多い!?~

 
 動物園の動物さんやペット君たちも私たち人間と同じ悩みを持っているようです。
彼らにもホームページを作る?
先日動物園で飼育係の方にお聞きしたことをお話しましょう。
動物園のサルはココ数年前からむし歯や歯周病が増えてきているそうです。野生のサルにくらべると5倍以上ではないかと言っていました。野生のサルは自然のままの食べ物を食べています。歯ごたえのあるものをよく噛ん食べる事によって歯についた汚れが落ちる。つまり、歯と歯茎の境にプラークなどはついいないのだそうです。トルコでは古来先を噛み潰した硬い樹で歯をこすってきたそうです。
野生のおサルさんと同じですね。
しかし、動物園のサルにはプラークがたくさんついていて、歯茎が赤く腫れて、歯周病が増えているようです。包丁やナイフで梨やリンゴを切ったときには、刃に果汁はついてもあまり汚れはつきませんが、シュークリームやケーキを切ると刃にべったりと生クリームなどがついてしまいます。この刃は人間の歯と同じですね。食べ物にも気を付けて食べ物を口にした後には歯を磨く事が大切なのです。食事が終わったら食器を洗うのと同じで、歯もきれいにしましょう。
また、逆のような場合もあるようです。オーストラリアで有名なコアラの話しを聞きました。野生のコアラは寿命が短いけれど、動物園のコアラは非常に寿命が長くなっているそうです。一番問題になるのは歯の病気で、野生のコアラは歯が悪くなる頃かその前に寿命がきてしまいますが、動物園のコアラは野生よりも長く生きますから歯の病気にかかってしまうというのです。そこで、一定の年齢に達したコアラは、歯の治療をすると寿命が延びるのだそうです。ん~歯は大切にしなくては!
最近ペットを飼う人が増えてきているようで、いろいろなところで動物を見ることができます。それに伴い動物病院も変わってきたようです。待合室に入ってみると“んっ?ココは歯科医院?”と勘違いするぐらいだそうです。厚生労働省の“健康日本21”で言われているむし歯についてや歯周病(生活習慣病)についてと同じ事が書かれていたポスターがあったのです。全身との関係、ストレス、喫煙(周りの人が喫煙する場合)などについてもです。なぜそうなったかというと、動物の飼育環境、とくに食事環境の変化とともに歯周病が増えているようです。犬や猫も人と同じように歯石やプラークができてきます。とくにウェットタイプの食事や人の食べものを与えている場合は要注意だそうです。
 そしてこんな事も“定期健診のときには歯も診てもらうようにしましょう。”ですって!私達人間もそうしましょう!

水鳥の入れ歯

 
 さて何の話でしょう。日本には色々な水鳥がいます。彼らのくちばしが折れたらどうなるでしょう。水の中でお魚を捕まえて食べられますか。くちばしが閉まらないと、お魚は逃げてしまい、捕まえられませんね。こんな鳥には死が待っているのです。自然界でも水鳥のくちばしは折れる事故が多いのですが、動物園では飼われている環境がくちばしを折る事故を多発させています。一部の動物園ではくちばしを折った鳥たちに、餌をくちばしの奥に入れてあげて生かしていますが、介護するには人手がかかり、係りの人たちを悩ませています。人の世も同じですね。
 
 私たちのところに動物園の獣医さんから、水鳥のくちばしを接着材で直して上げられませんかという問い合わせがありました。歯科用の接着材を研究してきた私たちにとっては、人の歯の接着材よりは簡単かと思ってお引き受けしました。実はいろんなことを水鳥のくちばしの修理(治療)から学びました。くちばしは軽くできているけれども、原則壊れない構造になっていて、簡単に工学技術の知識では人工のくちばしを作れないことを学びました。入れ歯の材料でくちばしを作ったのですが、重すぎて水鳥君の細い首にはかわいそうでした。もちろん黒いくちばしを作ってあげました。
 水の中を泳いでいるお魚を捕まえるには、水がくちばしを閉めたときに抵抗無く抜けないと、お魚は逃げてしまいます。水鉄砲の原理で、くちばしの脇から水はぬける構造をとっています。入れ歯と同じぴったりとした構造では使い物にならないのです。しかし先端はお魚が逃げないように力が加わってもお魚を捕まえていなくてはなりません。変形しても困ります。
 
 これが、くちばし破損の大きな原因です。そこで、私たちの持っている知識を動員して、ステンレスの細い線で補強された入れ歯(人工くちばし)を完成させました。補強するためにステンレスに接着できるように入れ歯に使うアクリル樹脂を改良したプラスチックを利用しました。これは今でも歯科の処置に使われています。
 
 次に大失敗をしました。私たちの虎の子の研究成果である、歯に接着できる接着材で折れて残っているくちばしの根元部分に出来上がった人工くちばしをくっつけたのです。はじめは大成功でした。とこらが、事故がおきてしまいました。人工くちばしが、接着したくちばしの根元から折れてしまったのです。水鳥のくちばしは、自然界で生きていくためにとても上手くできているのです。それに引き換え人間のやる工学的技術は、自然界にとけこめるか疑問がたくさんあります。水鳥君は折れた部分から出血してとても可哀想でした。生体組織を必要以上に丈夫に改良すると、別のところに問題が生まれるのです。人工のくちばしを接着材で固定しようという発想を自然界は拒否したと解釈すべきなのでしょう。
 
 私たちは人工材料(人工くちばし)と生体組織(くちばし)を接着で固定したことが問題であると考え、くちばしの残りの部分が短すぎることも考慮して、くちばしに人工くちばしをねじで機械的に保持する方法に転換しました。すなわちくちばしにある鼻くう(鼻の穴)を通して人工くちばしとくちばしの根元をねじで止めて、人工のくちばしで水鳥が元気に餌をついばみ、お魚を水中から捕まえて食べているところを確認できました。
 
 くちばしを接着で再建し、機能させた世界記録であると当時は言われましたが、科学技術がいくら進歩しても、自然を大切にする心が人々に求められているということを教えてくれたお話です。
人間も入れ歯を口の中に固定するのに苦労しています。それよりはエナメル質を大切にして、一生入れ歯の世話にならず、自分の歯で生きていけるようにする生活態度が大切であることを、水鳥の折れたくちばしを例に挙げてお話をさせていただきました。入れ歯により人は不自由でも水鳥よりは楽に生活していますが、根本は自分の歯を失わずに一生を終えられるようにすることが、もっとも自然を大切にする生き方であることをお話してこの物語を終えたいと思います。

タンポポは『ライオンの歯』

安田 登
 春になると道端や野原に可憐な黄色い花を咲かせるタンポポは、原産地を北アジアやヨーロッパに持つキク科の植物です。葉の形のギザギザがライオンの歯に似ていることから西欧では「ライオンの歯」と呼ばれています。英語でdandelionといいますが、これはもともとフランス語のdent-de-lionから来ています。dentは歯、lionはライオンですから、そのまま訳すと「ライオンの歯」となるわけですね。
 
 このタンポポ、ハーブティーとして飲むととても健康によいそうです。体内の毒消し、腫れ物消し、利尿作用、リウマチ、黄疸などなど・・・。 知らなかったですねえ。それとタンポポコーヒーって知っていました? この道のツウの方たちには常識なのでしょうけれど、正直言って私は始めて聞きました。こちらの方は根を利用して、これを煎じて飲むそうです。カフェインが入っていないので飲みやすいそうですよ。ふーん!今度やってみようかな?
 
 タンポポは北海道開拓時代に食用として輸入されたらしく、このほかにもサラダ、タンポポ酒なんかもできるのだそうです。お酒のほうは梅酒なんかと同じで、いろいろなリキュールにタンポポを入れて10日間漬け込んだあと、タンポポを取り出し3カ月くらい熟成させるのだそうです。
 
 何か歯にちなむよもやま話をと思って、フランスにいたとき仕入れた「ライオンの歯」の話を書き始めたのですけれど、何だかタンポポそのものの話のほうが面白くて、こんなよもやま話になってしまいました。
 
※DandelionというHPからたくさん情報をいただきました

枕草子

 
 「枕草子」を皆さんは、御存じと思います。今から千年ほど前に清少納言が書き綴ったものですが、一番は「春は、曙。やうやう白くなりゆく、山際すこしあかりて、~」で はないでしょうか。今頃になって「枕草子」の宣伝ではないのですが、この中で独断と偏見もありますが面白いものをいくつか御紹介します。
「ありがたきもの 舅にほめられるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。~」この中にある"ありがたきもの"は、あることが難しいの意味だそうで、めったにないことのようで、千年も前から嫁姑は現代的だったのでしょうか?ちょっとおかしくなります。
 「ふと心劣りとかするものは、男も女も、言葉の文字卑しう遣ひたるこそ、よろづのことよりまさりて、わろけれ。~」 現代的に言うと、"男も女も言葉遣いの卑しいものは、幻滅する"という意味でしょう。このようなことは年を取ると考えるのかもしれませんが、言葉の使い方が気になったりしますよね!でもこの清少納言も当時はそう言われていたかもしれないと思うと、現在と同じことを考えていたのかもしれません。
 顔や歯についても、少しずつ書かれています。前の歯が欠けていたら恥ずかしいといったことや、口が臭うなどのことも書かれています。
千年も前から歯科医師はいなくても、みんなで口や歯の健康を考えていたのかもしれません。
しかし以下のようなこともありますが、 「~歯をいみじう病みて額髪もしとどに泣き濡らし、乱れかかるも知らず、面もいと赤くて、おさえて居たるこそ、 いとおかしけれ。」 
歯が痛くて、髪を振り乱して泣いている姿をあらわしていますが、当時は、病に対しては祈祷や、陰陽師が携わっていたとおもいますが、歯の痛みには対処出来ていなかったのでしょう。
 千年も前の人達が食生活や環境は違っても、考えている事は同じ、歯を治すためにはどうすれば?なんて考えていたかもしれないと思うと、何か不思議な気分になりませんか?最近、現代語に翻訳されたというか、直訳された本が沢山出版されているようですので、御興味のある方はいかかですか?

将軍様の口の中はむし歯だらけ?

 
 徳川時代は300年続きましたが、最初の頃と江戸時代も末期になる頃の将軍様では口の中の状況が著しく異なっています。初代将軍家康、2代将軍秀忠の頃はまだ戦国時代の名残で、食べるものも硬く、粗末なものが多かったせいか、顎もしっかりとして、秀忠にはむし歯が1本もないことが知られています。
それに引き換え幕末になると、将軍家の食事は贅を極め、当時としては珍しい砂糖も薩摩の島津藩を通じて献上され、養生の品として使用されています。そうすると、考えられることはむし歯の発生です。1958年から1960年にかけて行われた増上寺徳川将軍家墓所の改装に伴う発掘調査記録(「骨は語る・徳川将軍・大名家の人々」鈴木 尚)によりますと、第14代将軍徳川家茂(1846-1866)は上下顎共にむし歯がとても多かったことが示されています。 21歳で夭折していることから考えるともともと体の方も弱かったのかも知れませんね。
 しかし、むし歯が多いこともさることながら、時の最高権力者の地位にいた徳川将軍が1本の治療も行っていないことに驚かされます。19世紀の半ばといえばわずか150年ほど前にしか過ぎませんので、むし歯の治療はほんの最近まで行われていなかったのですね。
歯科の歴史を語るとき、起源はエジプト時代とされたり、紀元前の古人骨からむし歯の治療跡が発見されたなどの記事を認めることもありますが、将軍様の顎骨の状況を見るとにわかに信じることは出来ません。むしろ、宗教的な儀式の一環として、あるいは美しさを求めた結果として歯を傷つけ、穴をあけたとする考えの方が分かり易いですね。何しろ人間は美を求めることに対しては何でもしてしまいますからね。

Dentistry is a work of love

 
 皆さんは内村鑑三という人をご存じでしょうか?キリスト教の伝道師、国際的な思想家として活躍された内村鑑三先生が大正15年の夏、 こよなく愛されていた自然豊かな避暑地長野県中軽井沢の星野温泉に逗留中、突然激烈な歯痛に襲われました。
しかし当地の歯科医院で受けた手厚い歯科医療によって、程なくその苦痛から開放されたそうです。
 そのときの喜びを、心より表現された言葉が「Dentistry is a work of love」です。
この言葉は苦痛から解放された患者の歯科医療に対する感謝の表れであるばかりか、歯科医療に携わる者の座右の銘として大切にされている「言葉」です。やはり歯科医師としても人間としても一番大切なのは「人の心がわかる」ということだと思います。
 この書は今でも星野温泉ホテルブレストンコートの石の教会(内村鑑三記念堂)に展示してあるそうです。
悲しいことが多い世の中です。テレビ、新聞等でも毎日のように報道される殺人事件、戦争、国際紛争、政治スキャンダル、・・・・は枚挙に暇がありません。歯科医療だけではなく人間関係そのものが「work of love」なのではないでしょうか?人に対して優しい気持ちを持ち続けたいものであります。
「優」という字をみて下さい。人が憂えると書きます。優しいとは人が憂えるのをみるに敏な心なのです。
そしてそれが人間として一番優れているこということかもしれません。

時代は変わった! ガムとお菓子でむし歯予防?

 
 いやいや時代は変わったものですね。その昔はむし歯の敵は甘いお菓子にガムといわれていました。それはなぜかというところから話をしましょう。お口の中にいるむし歯菌(主にミュータンスレンサ球菌)は、プラークと呼ばれる塊となって歯にべったりとついています。そして、食物の中に含まれるお砂糖や炭水化物をエネルギー源として利用し繁殖していきます。その過程で代謝される酸によって歯の表面は溶かされてしまいます(これを脱灰といいます)。
 
 でも、人間の体はよくできており、細菌の塊であるプラークを取り除いてきれいなエナメル質を露出さえすれば、今度は唾液に含まれているカルシウム分が、むし歯菌が溶かした表面を一生懸命埋めていってくれます(これを再石灰化といいます)。歯の表面は食事のたびにこういった溶かしたり埋めたりということを繰り返し、脱灰される量の方が再石灰化される量より多いとむし歯になってしまいます。
 
 ただし、再石灰化の時間は脱灰される時間の10倍以上はかかりますから、この時間(つまり再石灰化の途中の時間)に飴やガムなどの甘いものを食べてしまうのは、せっかくの唾液の働きを邪魔してしまうことになります。それが、ガムや飴が敵視されていた最大の原因なのです。ですから、甘いものを取るのは量ではなくて、頻度が大切なのです。
 
 まあ、これが今までの考え方でしたが、最近では砂糖の代わりに再石灰化を促す効果のあるキシリトールやリカルデント、ポスカムなどがガムや飴の中に含まれるようになって、むしろこういったものをとった方がむし歯にならないという考えも示されてきました。しかし、これらをとっていれば、歯磨きをしなくてもよいなどとは間違っても考えてはいけません。プラークをきちんと取り除いてきれいなエナメル質面を出さない限り、どんな薬も何の役に立たないことを忘れてはいけません。プラークコントロールをして、プラークを作りにくいお菓子を食べる、これがかしこい方法です。
 
 乳酸菌LS1を含んだ錠菓も発売され、これは歯周病や口臭予防に効果があるとも言われています。こうなると、使い方さえ間違わなければ、ガムやお菓子はお口の健康の敵ではなくて味方になったのですね。時代は変わったもんだ!

スポーツ選手は、歯が命!?

 
 4年に1度のバレーボール・ワールドカップが開催され、1ヶ月に渡って日本各地で熱戦が繰り広げられました。日本は残念ながら男女とも3位以内に与えられるアテネオリンピックの出場権を得ることはできませんでしたが、この大会では若い力が育ってきて選手達の一生懸命な姿には好感が持てました。劣勢になってもあきらめず、フルセットの末逆転して勝ったときなどは、まさに感動ものでした。
来年5月に行われる最終予選では、アテネへの切符を勝ち取ってくれることでしょう。
 その熱戦の中、ボールを追いかける選手の傍らで、怪我をしたために試合に出られず、コートサイドから応援をしている選手がいました。ふと見ると歯列矯正をしています。
歯並びと運動能力については以前から指摘されていますが、実際に上下の歯が接する総面積と運動能力の関係を調べたところ、面積が大きい人ほど運動能力が高かったという報告があります。この選手は自分の力をより発揮させるために歯列矯正をしていたのでしょう。
リレハンメルオリンピックの時も、選手村の診療所ではのべ434人の患者さんのうち、約半分の205人が歯科の患者さんだったそうです。これは歯が痛くて来院した人だけでなく、競技中に歯には強い力がかかるので歯の詰め物が取れてしまうケースも多かったようです。やはり、歯はスポーツ選手にとって整えなければならない重要なコンディションの1つと言えるでしょう。
 また、バレーボール中継の中でイメージキャラクターの女優さんが「私は1ケ月に4回ぐらい歯医者さんに通って、クリーニングや漂白をしてもらっています。」と話していました。さすがに女優さんにとって口元は命とも言えるもので、自分をより美しくするために歯は大事なのですね。もちろん、普通の人にとっても歯は大切です。歯が痛くなってからではなく、歯が痛くなる前に、痛くならないように歯医者さんに行ってみてはいかがでしょうか。

「私、禁煙してるんだ!」

歯科衛生士 奥麻衣子

 
 何ごともないごく普通の毎日の中で、本当にちょっとした言葉が、あるいはちょっとした出来事が自分も含めて人の心を動かすということがこの年になって実感できた1日でした。
 
 この話の主人公は55歳の主婦の方です。左下奥歯にインプラントをした以外にはほとんど修復(詰め物)や補綴(被せ物)をしたところはありません。今をさかのぼること5年、2ヶ月に1回ステイン(着色)、歯石の除去を行い、定期的なクリーニングをするために私どものところへ通っておりました。
 
 お口について関心が高いため、虫歯などはもとより、汚れも少ないのですが、喫煙によるヤニの沈着が気になる様子でした。ご主人はヘビースモーカーでしたが仕事の都合で禁煙され、それ以来、奥様にも禁煙を熱心に勧めるようになったとのことです。しかし奥様の方は本数が少ないこともあり「今ひとつ禁煙をする気持ちになれない。」と話しておられました。
 
 私自身も禁煙できるようサポートしなくてはと思いつつも、消極的なご本人を前にして多少あきらめていた部分もありました。そんな折、ご本人からホワイトニングの希望がありました。もともと健康、美容についての関心が高く、ゴルフに陶芸、フラワーアレンジメント等趣味も多方面にわたり色々な方と交流のある活動的な方です。女優の萬田久子さんに似た雰囲気をもっておられます。
 
 ご自身の歯は特に濃い色調ではないのですが、「歯が黄色いと年齢より老けてみられるし不潔な印象をあたえるのではないか?」という危惧もあったようです。ホワイトニングについてご説明すると積極的な様子で話も真剣にきいてくれたのです。こうして無事にオフィスホワイトニングを終了。その出来栄えに大変満足された様子で、帰られました。ホームホワイトニングも考えてみるとのことでした。
 
 そして後日来院された時、うれしそうな笑顔で「実はね、私、ホワイトニングをしてからずっと禁煙しているのよ」と話して下さいました。意外な報告に驚きつつ、私もなんだかとてもうれしくなり、「すごいですね、もう1週間にもなりますよ」と言う言葉が口をつくと、ご本人も「でも、吸いたいなぁと思うことがけっこうあるから続かないかも」と照れくさそうにおっしゃっているのがとても印象的でした。結局ホームホワイトニングもされることとなり、今後が楽しみです。
 
歯科医師の先生の中には「へぇ?ホワイトニングねぇ?」と眉をひそめる方もいらっしゃるのでは無いでしょうか?でもお口の中をキレイにすることすなわちホワイトニングというツールがきっかけとなって、「禁煙」という当人も、もちろん私たちも予期しなかった成果を得ることができました。「お口の中をキレイにする。」をスローガンにすれば、きっと歯科医院も少しは行きやすい場所になるでしょう。その結果「健康」をも手に入れることができるのです。すなわち「キレイ」をキーワードに「通いたい歯科医院」をプロデュースすること、これが「予防」への近道であることを確信致しました。これをきっかけにまた積極的にすすめていけたらと思います。
 
皆さんは「北風と太陽」というイソップ童話をご存じですね。旅人にコートを脱がせるという行動変容を起こさせるのに北風がしかめ面をして口をとがらせていてもだめなのです。優しいおおらかな太陽のような存在になってニコニコしていること。そうすればきっと旅人もニコニコしてその重いコートを脱いで身軽な姿になってくれるはずですよ。